気候と高潮

ヴェネチアの気候

ヴェネチアは緯度的には北海道の北の稚内市とほぼ同緯度に位置していますが、地中海気候が影響して四季通して東京と同じくらいの気候です。年間通して湿気があり、夏は蒸し暑く、冬は底冷えする気候です。イタリアで、ヴェネチアは湿気の街と形容されます。

近年、夏は35度以上まで上がる日も頻繁にあり、日によって日射しが相当強いので帽子は必需品です。女性の方は日焼け止めクリームと折りたたみの日傘をお持ちになることをお勧めします。冬も東京とだいたい同じ気温です。冬はとにかく湿度からくる底冷えが厳しい日があります。ホカロンを首や腰に貼り、時に靴に入れるホカロンがあると良いくらい冷える日もあります。いずれにしても、世界同様もはやイタリアも異常気象で、猛暑の状況は毎年悪化しています。

日本の6月のような梅雨や雨季の時期はありませんが、季節の変わり目は比較的雨が振りやすかったです。ただし、近年の傾向は、雨量が減って、雨が降るとゲリラ雨のような激しい雨降りが頻繁になってきました。ヴェネチアは細い路地を歩くので折りたたみ傘が便利です。

高潮の現象『アクア・アルタ 』

ヴェネチアでは高潮現象をアクア・アルタと言いいます。通常9月から4月までが、アクア・アルタの時期とされています。ただし、近年は環境変化の影響で5月から8月にも高潮現象が起きる回数が増えてきました。高潮はヴェネチアの島全体を同一に浸水させるわけではなく、地域によって海面からの地面の高さが異なったり、島全体に網の目のように張り巡らされている運河からの距離によって、浸水の原因ともされる下水道や排水設備の配置など、様々な要因で場所によって浸水の状態が異なります。

下記の三箇所でも、高潮の浸水状態が異なるのがお分りいただけると思います。

通常、高潮は6時間で増加して、その後の6時間で減少する潮のサイクルです。例外的な高潮だと、高潮上昇率が高くなる為、満潮に達した後も、高潮が引くのに時間を要して、島が浸水している時間が長くなります。また、風の影響で高潮が引くのが長引くこともあります。

ヴェネチアは、干潟に建てられた人工の島で、島のほぼ全体の97%は海抜100 cmしかありません。この海抜は近年起きる高潮現象の高さを下回っています。

サン・マルコ広場 / Piazza San Marco

ヴェネチアでも最も浸水やすいサン・マルコ広場の地面の高さが80cmなので、80cmを越えると浸水が始まります。例えば、高潮が110cmの高さに上昇すると、広場は30cmの高さで浸水するので長靴が必要になります。

リアルト橋 / Ponte di Rialto

リアルト橋は地面の高さが105cmなので120cm上昇すると15cm浸水します。

サンタ・ルチア駅 / Stazione FS

サンタ・ルチア駅は、サン・マルコ広場、さらにはリアルト橋に比べても、地面の高さが135cmとダントツ高く、モーゼは130cmで稼働するので、今日もはやサンタ・ルチア駅付近は浸水することはない訳です。

約20年かけて約8900億で建造したモーゼ(海中に設置された巨大な可動式堤防)は130cmの高潮なると海面下から上がって、アドリア海から海水が入る堤防の役割を果たします。この場合、長靴を履いて島内の移動は避けられるようになりました。

モーゼは130cmの高さにならないと稼働しないため、サン・マルコ広場のような地盤の低い場所は水に浸ってしまい、以前同様に長靴を履いて移動する必要があります。モーゼの堤防を稼働する度に、稼働時間によりますが、約4千万円から3千万円かかるそうです。

通常、高潮は6時間で増加して、その後の6時間で減少する潮のサイクルに従います。例外的な高潮だと、高潮上昇率が高くなる為、満潮に達した後も、高潮が引くのに時間を要して、島が浸水している時間が長くなります。また、風の影響で高潮が引くのが長引くこともあります。

ヴェネチアの地下にあるプレートは毎年数mmの割合で沈下していると言われてきて、私も常にそう思っていました。高潮視察はヴェネチアに住み始めた25年前から頻繁に行ってきました。一昨年2018年最後に高潮視察をヴェネチア市役所で視察を行った際には、この数年沈下は止まっていると説明を受けました。ただし、毎年数mmの割合で沈下が進んでいれば、10年で数センチメートル沈む計算になり、数百年経てばいずれ海抜0cmとなり事態はかなり深刻です。

近年は環境変化の影響で異常な干ばつ現象がおきています。

満潮は一定の時間なので、その時間が過ぎれば水は引きます。一方で、異常な干ばつで小運河の水が干し上がる現象が、近年悪化して、2023年2月には記録的な干ばつで、恒例の高潮同様に世界のニュースでも取り上げられました。

ヴェネチアは、干潟に建てられた人工の島で、島のほぼ全体97%は海抜100 cmしかありません。この海抜は近年起きる高潮現象の高さを下回っています。例えば、140cm以上の例外的な高潮場合、島の最下地点サン・マルコ広場は約60cm浸水することになり、島内の歴史的中心部の約54%が浸水することになります。通常の潮位より潮位 90cmまでの高潮の場合、海面からの高さが低い地域や排水設備が近い場所は浸水しやすいですが、それらの場所を避ければ、通常通り歩けます。ただし、90cm以上になってくると、浸水している地域も増えて、通常の潮位より潮位 120cm以上になると、島の約1/3が浸水します。

潮の観測センター

140 cm以上の例外的な高潮現象が予想されると、ヴェネチアの潮の観測センターの情報サービスの音響警告によって警告されます。通常高潮は上昇してから低下するまで約3〜4時間続き、水位が低下すレバ、都市は通常の状態に戻ります。例外的な高潮現象でなければ、島が高潮で浸水しても通常は長靴を履いていれば、島内は歩道なので通行可能です。潮位を測定するときは、プンタ・デッラ・サルー​​テ(サルーテ教会近く)の験潮儀(海面の昇降を測定し、測定結果を連続記録する器械)のゼロレベルを基準として使用します。

実際、浸水した場合の対処法は、長靴を履くか、浸水しやすい場所に並べられている足場を歩くかです。足場は全ての浸水している場所に設置してあるわけではありません。長靴を履いて移動することが最も便利です。長靴は、一時的な対処として、靴から膝下までを覆う長靴式レインコートのようなものが、街中のお土産物屋やタバコ屋で6〜10ユーロで売られています。

島内のプンタ・デッラ・サルー​​テ(サルーテ教会近く)にある潮の高さを測る験潮儀で計測される下記のデータが基準になっています。潮位監視予報センターでは、海洋データや気象データを分析して正確な予測を出しています。通常48時間前からの予報も出されていますが、正確なのは48時間内とされています。

通常の潮位:- 50〜79cm
イエロー・レベル   潮位 80〜109cm     持続的な潮
オレンジ・レベル   潮位 110〜139cm   非常に強い潮
レッド・レベル    潮位 140cm 以上   例外的な満潮

高潮警報:110cm以上になる場合、4段階に分かれてサイレンが鳴ります。サイレンを理解するには、音を数えることで理解できます。サイレンは何度か繰り返して鳴ります。
110 cm : 一音が同音で長引く
120 cm : 二音が高音になっていく
130 cm : 三音が高音になっていく
140 cm 以上 : 四音が高音になっていく

高潮の頻度

ヴェネツィア市の潮予報・報告観測センター(CPSM)によると、「持続的な潮」80〜109 cmで、既に島の最下地点サン・マルコ広場の歩行者の交通に問題が発生する高さとなり、すでに述べたとり「例外的な満潮」140 cmを超えると、島内の歴史的中心部54%が浸水します。潮予報・報告観測センター(CPSM)サイトでは、1983年にセンター設立以前に存在していた情報源から推定された1872年からのデータを基本にしています。110センチのレベルを超える満潮はかなり稀でしたが、過去50〜60年で激化しました。

1870年から1949年の間は110cmの高潮を超満潮としており、30回記録しました。潮が110 cmを超える回数が最も多かったのは2009年と2010年でどちらも14回、2014年は13回、2018年は7回でした。140cmを超える「例外的な満潮」は1870年から2000年まで平均9回しか発生しませんでした。

2019年11月12日

ヴェネチア高潮異常事態

過去にもヴェネチア高潮のニュースが世界に報道され続けてきましたが、史上第二の高潮を記録した2019年11月12日の高潮異常事態のヴェネチア高潮の場面が世界各国で報道されました。2019年11月12日は、1966年の最高記録194cmの高潮に次ぐレベル187cmまで上昇しました。高潮は数時間かけて安定したペースで 10分ごとに3、4、5cmと上昇しました。

潮予報・報告センター(CPSM)は電話サービス、新聞、掲示板、水上バスの乗り場などを通して高潮情報を伝達します。ヴェネチア市のサイトからも、登録すればメールや携帯に高潮情報のメッセージが送信されます。また、潮状況アプリ(hi!tideVenezia)を携帯にダウンロードして、ヴェネチアの島各地域の浸水状況も確認できます。

一方で、高齢者はネットや携帯を使いこなせない方々もいるので、市に登録すれば、自動的にコンピュータで携帯電話に連絡が入るようになっています。イタリアも日本同様に高齢化が進み、人口の22.8%(2019年)が高齢者と言われています。特にヴェネチアの島々は高齢者の住民が多い地域です。そこで高齢者にむけの有効なシステムが取り入られるようになりました。

ヴェネチアの島の到着や出発時の移動に、小運河に船着場のあるホテルを予約し、旅行代理店やホテルにチャーターの水上タクシーを手配している方は、満ち潮や引き潮のタイミングで、ホテルの船着場に直接水上タクシーが着けない場合もありますので、ご確認ください。

また、単独で水上バスで駅や空港に移動される方で、モーゼが稼働しない微妙な高さの高潮中に、水上バス乗り場までスーツケースを持って移動する際には、高潮が障害になる場合もありますので、事前に高潮の時間を確認して、ベストな水上バスの時刻など、ホテルに確認して移動されることをお勧めします。潮状況アプリ『hi!tideVenezia』を携帯にダウンロードすると、3日間の24時間、そして各地域の潮の高さや浸水状況を確認できます。

ヴェネチア市のサイト日本語『アクア・アルタ情報』 https://www.comune.venezia.it/ja/node/17779