ゴンドラ

ヴェネチアを訪れると、小さな運河を優雅に移動するゴンドラは、文化遺産の素晴らしい建物同様に、ヴェネチアを訪れた人々を街同様にを魅了する乗り物です。
そこで、皆さんがヴェネチアでゴンドラに乗船する際に、さらにゴンドラの周遊を楽しめるように、ゴンドラの歴史をご紹介させていただきます。

昔、仕事で12台の中古ゴンドラを修理して、日本に輸入しました。数ヶ月かけて、ゴンドラ製造場「Squèriスクエリ」に通いました。その際に、ゴンドラ製造職人さんやゴンドリエーレに多くのことを教わりました。「ゴンドラ」の管理は、ゴンドラをつくる基礎となるゴンドラの木材と水の関係をよく知ることであり、「ゴンドラ」を上手く漕ぐには、ヴェネチアにしか存在しない専用の工房で各自の体格にあった櫂 (Ramo) と櫂受け (Forcola) をオーダーメイドで作ってもらうことだそうです。それ故、各ゴンドリエーレが使っている櫂 (Ramo) と 櫂受け (Forcola) は同じように見えて、微妙に異なります。

ゴンドラは1000年以上、ヴェネチア人の主な交通手段として存在してきました。現在は観光客むけの典型的なヴェネチアのアトラクションとして存在しています。一方で大運河上に対岸に渡る「渡し船(Traghetto) 」の乗り場が8カ所あり、水上バス同様に公共交通機関としてもつかわれています。

ゴンドラの歴史には様々な説が残っています。本土側に住んでいたヴェネチア人がゲルマン民族の襲来で、人が住みにくいラグーン(潟)地帯のヴェネチアの島々に命からがら逃げ住みました。その約100年後のゴンドラに関する最も古い資料では「538年に一家に一台の船を所有していた」と表記されています。この船が今日のゴンドラとは大分異なっていたことは確実です。そして809年に、あるヴェネチア市民が、当時のヴェネチアを描写する資料の中で「ゴンドラ」の名をあげています。一方で、1094年の公式な資料では「ゴンドラはヴェネチア共和国総督の特権」と書かれています。

ゴンドラのかたちは、時代と共に変化してきました。最初の頃はかなりシンプルな船だったようですが、ヴェネチア共和国の繁栄に比例するように、豪華なゴンドラも作られるようになります。国が繁栄すれば、裕福になり人口も増え、同時にゴンドラの数も増加して、ヴェネチアの交通の管理を共和国政府が行うように、ゴンドラの管理も政府が行うようになります。屋根付きの小部屋付きのキャビン「フェルツェ(Felze)」のあるゴンドラも誕生します。

今日、車に庶民的な車から高級車があるように、庶民が移動や運搬用に使うゴンドラと貴族が乗るゴンドラは異なっていました。 貴族用ゴンドラの中央部分には、屋根付きの小部屋のキャビン「フェルツェ(Felze)」があり、外・内部とも絨毯やレース等でより奇麗に飾り、豪華な衣服を着せた2人のゴンドリエーレがいました。この場合のゴンドリエーレは奴隷が漕ぎ手の役割をしていたようです。今日のゴンドラよりも長くなります。貴族達は移動する以外にも、ゴンドラで落ち合ったり、密会したり、運河を散策するかのように遊覧なども楽しみました。1453年の資料では、「一家に一台以上のゴンドラを所有していた」ことが表記されています。

1562年に共和国政府の命令で費用削減法が実施され、共和国が不況の時代に、華やかな乗り物に乗って浮かれている場合でなく、慎むべきことをモットーに、黒一色のゴンドラに規定されました。法律が無効になった後も今日に至るまで、それが習慣となってしまい、ゴンドラは黒の塗装が一般的になりました。今日のゴンドラのかたちは1600年代から存在したようです。1900年代始めには解体式のキャビンが使われていたそうです。18世紀には、ゴンドラの数は数千台存在したと言われており、ゴンドラ製造は19世紀の終わりまで発展し続けました。20世紀に入るとモーターのボートが普及し、ゴンドラは過去のようにヴェネチア人の交通手段でなく、今日あるような観光客向けの乗り物へと変容しました。

今日ゴンドラは425台存在しています。280の異なったパーツで、約一年かけて専門のゴンドラ製造場「Squèriスクエリ」で製造されます。長さ11.5m幅1.4mで、左側は右側より幅広い左右非対称のかたちで製造されます。何故なら、ゴンドリエーレは左側に乗って櫂受けに長い櫂をまかせながら漕ぎます。左側に乗るゴンドリエーレがバランスを取りやすくするために左舷の方が右舷より 約25cm長くなっています。左右非対称なおかげで、縦に湾曲して水面との接触を最小にとどめ、一つの櫂だけでもかなりの推進力を得られそうです。船の前面にある鉄製の装飾は「船首の鉄(ferro di prua)」と呼ばれ、鉄は事故の衝撃から船首を保護し、装飾の役割や船尾付近で漕ぐゴンドリエーレがバランスを取る錘の役目も果たすそうです。